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コラム
有病高齢者の歯科治療について
近年、歯科医療の現場においても超高齢化社会の影響を受け、いくつかの基礎疾患を持ち、複数の薬を服用している患者さんが増えています。歯科処置時に対応が必要な基礎疾患は、高血圧、心疾患(不整脈、弁膜症、冠動脈疾患など)、肝障害、脳血管障害(脳梗塞など)、腎障害など多岐にわたっています。今回は、疾患を持ちながら歯科治療に通院していただく高齢の患者さんへの対応について、ご紹介します。
歯科治療時に対応が必要な基礎疾患
抗血栓療法を受けている方
血液がサラサラになる薬を服用されている方は、外科処置後の副作用として、出血がとまりにくいことがあります。処置の時だけでなく、夜間出血や翌日に出血することもあります。病気では、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、心臓弁膜症、閉塞性動脈硬化症、不整脈(心房細動)、肺塞栓症、深部静脈血栓症、拡張型心筋症、動脈狭窄症などがあります。その中でも特に心臓弁膜症の治療歴がある方や人工弁置換術を受けられた方では、外科処置後に心臓弁の病気である感染性心内膜炎になることがあり、処置前にしっかりと抗菌薬の投与が必要になります。また抜歯に際して、抗血栓療法の薬の中止や中断をすることには、心原性脳梗塞の発症や再狭窄による心筋梗塞や脳梗塞の再発のリスクがあり、発症すると非常に重篤になります。よって、基本的には薬を継続したまま抜歯することが望ましいとされます。ただし、薬のコントロール状況が悪い場合は、かかりつけ内科医と相談して、治療が進められます。狭心症
CCS(カナダ心臓血管協会)の機能分類中、ClassⅠ~Ⅲにおいては、歯科麻酔が調整されて行われますが、Class Ⅳにおいては治療不可となっています。 ・ClassⅠ 普段は大丈夫だが、過激な運動をすると狭心痛がある場合。 ・Class Ⅱ 階段や坂道を登ると狭心痛がある場合。 ・Class Ⅲ 平地を歩くだけで狭心痛がある場合。 ・Class Ⅳ 少し動くだけで狭心痛がある場合。心筋梗塞
発症後30日経過すれば、注意深く全身管理を行うことで歯科治療は可能となっていますが、一般歯科医院では3ヶ月以降にする方が良いでしょう。麻酔の使用量や血圧などの測定は狭心症に準じます。不整脈
原則的に心電図のモニターを行い、経過観察程度なら注意深い全身管理の下に歯科治療が行えます。脳卒中(脳血管障害)
血管がつまる脳卒中では、脳卒中再発と抗凝固薬に注意が必要ですが、注意事項は狭心症・心筋梗塞と同じです。1ヶ月以内ではどのような歯科治療でもリスクが高く、口腔外科手術(※1)では3ヶ月以上の延期が望まれます。高血圧の方
血圧が高い方は、外科処置後の副作用として、出血が止まりにくいことがあります。処置の時だけでなく、夜間での出血や翌日に出血することもあります。尚、コントロールが不良の場合は、脳などの他器官に影響する高血圧緊急症などが起こることもあります。骨粗しょう症の方
骨を強くする薬を服用されている方には、抜歯部位の創が治りにくい、可能性は少ないですが骨髄炎・骨壊死が起こることなどがあります。尚、整形外科や内科などで飲み薬ではなく、数ヶ月に1度の割合で注射を受けている場合も、申し出てください。糖尿病の方
血糖値を下げる薬を服用されている方は、糖尿病によって創傷治癒能力が低下しているので、抜歯後感染の可能性があります。また、抜歯後に疼痛や炎症で開口障害が出現した場合は、食事量が低下し、血糖値を下げる薬を服用すると低血糖になる危険性があります。血糖コントロールが悪い場合は、かかりつけ医の先生と相談しながら治療が進められます。リウマチ・自己免疫疾患の方
免疫を抑える薬やステロイドを服用されている方は、創傷治癒能力が低下しているため、抜歯後感染の可能性があります。また抜歯後感染が重症化することがあります。悪性腫瘍治療中の方
抗がん剤治療により骨髄抑制が出現している場合には、白血球減少による抜歯後感染や血小板減少による抜歯後出血の危険性があります。また、抗がん剤の副作用で嘔気や嘔吐が認められる場合は、抜歯をすることで更に栄養状態が悪化することも考えられます。心不全の方
NYHA(ニューヨーク心臓協会)の分類でも、CCS(カナダ心臓血管協会)と違いはありませんが、Ⅱ度なら30分程度の歯科治療が可能です。METs(metabolic equivalents)と身体活動の分類には、1.0から8.0までの段階があり、4METs(日常生活程度でひどく疲れる、胸がドキドキする、胸が苦しい)で、NYHA分類のⅡ度に相当します。 ※日常生活:平地を5.7~6.0㎞/時で歩く、階段を楽に2階まで上る、自転車、サイクリング(16㎞未満)、こどもと遊ぶ、通勤、車いすを押す、庭掃除、屋根の雪下ろし 歯科は消化器外科や循環器内科、耳鼻咽喉科などと同じ、医療分野ですから、全身状態は大変重要な情報となっています。院内での問診票と共に、お薬手帳は大変貴重な情報源ですから、受診の際には必ずお薬手帳を持参してください。監修者情報
公開日:2023年07月10日
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