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コラム
災害時の口腔ケアで誤嚥性肺炎予防
今回の能登半島地震の被災地では、水不足により歯磨きなどの口腔ケアが十分に行えず、雑菌が肺に入って起こる「誤嚥性肺炎」の増加が心配されています。能登総合病院歯科口腔外科では、震災後2週間に誤嚥性肺炎になって、歯科での対応が必要になった患者さんが19人(65~103歳)いました。これは例年の3倍にもあたります。年代別では80代が7人、90代が5人と多くなっており、全員が地震で断水となった地域の患者さんでした。今回は、断水時における高齢者の誤嚥性肺炎を予防する口腔ケアについて、ご紹介します。
少ない水による口腔ケアで誤嚥性肺炎を防止
地震の影響で断水している地域では、口の中を歯磨きなどで清潔に保つことをおろそかにし易く、「誤嚥性肺炎」になるリスクが高まります。以下では、水量の多少によってできる口腔ケアの方法をご紹介いたします。水不足でもできる口腔ケア
水が少ない場合
・用意した2つのコップに水を入れます。 ・片方のコップの水で歯ブラシを濡らして、歯を磨きます。歯磨き粉は少量にとどめます。磨いている途中で歯ブラシが汚れたら、ティッシュなどでふき取ってください。 ・歯磨きを終えたらコップの水に歯ブラシを入れて、汚れを落とします。 ・口をゆすぐのは、もう片方の水で行ってください。一気に口に含まず、少量を2・3回に分けて、ゆすぐのが効果的です。 ・歯磨きをする時は、水で濡らしたティッシュペーパーで軽く唇を拭いて、口の周りを清潔に保つことが大切です。水がほとんどない場合
・アルコール成分を含まないウエットティッシュ、または水で濡らしたハンカチやティッシュペーパーで、歯や口の中の汚れをふき取ってください。水が全くない場合
ウエットティッシュさえない時は、抗菌作用のある唾液を利用してください。唾液が出にくい場合は、奥歯の横の辺りや前顎の下をマッサージすると出やすくなります。入れ歯も1日1回、ケアが必要
入れ歯を使っている場合は、1日1回取り外して、水やウエットティッシュで拭いて清潔に保ってください。誤嚥性肺炎とは
口の中が清潔に保たれていないと、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。誤嚥性肺炎は、食道に運ばれるはずの食物や唾液が誤って気管に入り込み、細菌が肺で繁殖して炎症を起こす病気です。もし口の中を不衛生なままで飲食すると、のみ込む際に多くの細菌を一緒に運ぶことになります。特に高齢者は、食道に運ぶ力が低下しているため、気管に入り易いので注意が必要です。誤嚥性肺炎を防ぐために
口腔内の加湿・保温が重要
高齢者の場合、加齢や薬剤の副作用などが原因による唾液分泌の減少が認められます。そのため、口腔乾燥による粘膜損傷以外に、唾液が菌を洗い流す自浄作用や唾液中の抗菌物質(ラクトフェリン、分泌型IgA など)による抗菌作用減弱のため、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。そこで保湿ジェルや人工唾液を活用した口腔内の加湿・保温が重要です。口腔保湿剤としては、抗菌作用があるヒノキ由来の天然成分ヒノキチオールなどがあります。食事時の注意
食事時の姿勢やむせ・咳の有無の確認、嚥下動作を注意深く見守ることも大切です。また、食べ物の大きさや形、一度に口に入れる量などにも配慮してください。小さくて嚙みやすくしたものを少量ずつ食べるのが安全な食べ方の基本です。しかし、食べやすいと思われている「きざみ食」は、食塊がまとまり難く誤嚥リスクを高めるので要注意です。介護食では、スムーズな嚥下をサポートするためにゼリー状にしたり、「とろみ」をつけたりしてください(嚥下調整食)。こうすれば、食塊がまとまってのみ込みやすくなり、粘度が増すことで食塊の喉を通る速度が遅くなって、嚥下反射が遅れても誤嚥し難くなります。災害直後は口腔ケアが不十分
口腔ケアの大切さを知ってもらうことは、災害関連死を防ぐことにもつながります。特に高齢者は免疫力が低下し易いので、意識して口腔ケアしてください。通常時でも高齢の方に誤嚥性肺炎は多いのですが、災害の発生直後は人手不足の中では口腔ケアが十分できないことが多くなっています。災害時は栄養が足りず抵抗力も落ちているので、介護が必要となる前のフレイル状態になるのを予防する取り組みも含めた対策が必要です。過去の災害では、老人ホームなどの介護施設から誤嚥性肺炎で入院された方が多かったというデータがあります。口腔ケアの3ステップ
口腔ケアは歯磨きを含めた3つのステップに分けられ、毎食後の実施が好ましく、できれば就寝前や食前にも行ってください。歯磨き
口腔ケアのメインは歯磨きです。歯ブラシで歯の表面はもちろん、歯間や歯の根元と歯茎の間などを丁寧にブラッシングして、歯垢を取ってください。歯ブラシでは歯垢が取りにくいところは、歯間ブラシを使ってください。脳梗塞などで麻痺がある場合、麻痺側に汚れが溜り易くなるので、注意して磨く必要があります。舌や粘膜のケア
歯茎のケア以外には、舌、口蓋や頬の内側などの粘膜ケアがあります。舌のケアには舌ブラシ、粘膜にはスポンジブラシを用いて優しくこすって汚れを取ってください。歯と唇の間の粘膜は汚れが溜り易く、見落としがちですから忘れずにケアしてください。入れ歯(義歯)のケア
歯垢は自然な歯に限らず、入れ歯にも溜まるので、歯磨きや舌・粘膜のケア以外に入れ歯のケアも必要です。歯垢が溜まると細菌が繁殖していくので、口腔ケアで清潔に保ってください。尚、入れ歯洗浄液につけるだけでは十分に汚れが取れるとはいえません。1日1回入れ歯を外して、入れ歯洗浄ブラシなどを使って細かな部分まで掃除してください。 いかがでしたか、過去に起きた大きな災害では、口の中の細菌が唾液と共に肺に流れ込んで肺炎を起こす「誤嚥性肺炎」の患者さんが増え、死亡することもありました。地震の影響で断水している地域でも、口腔ケアには十分に気をつけてください監修者情報
公開日:2023年07月10日
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