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コラム
歯の神経を守るMTA覆髄治療について
歯髄は歯の最も内部にある神経や血管がある部分で、歯に加わるいろんな刺激を感知して、むし歯などから歯を守る機能があります。また、感覚機能だけでなく、防御壁となる第二象牙質(デンティンブリッジ)の形成やむし歯菌に抵抗する免疫細胞などの防御機能もあります。このように大事な歯髄の近くまでむし歯が進行すると、刺激により歯髄が炎症起こしやすく、かつては神経を取る処置(抜髄処置)がなされていました。しかし、現在ではMTA覆髄治療により、歯髄を保存する確率が高くなっています。今回はこの歯髄保存治療について、ご紹介します。
歯髄を守る・残す理由
歯髄は神経組織や血管が集まった部分として、痛みや刺激を伝える感覚機能の外に、歯髄の外側にある象牙質の形成や、歯に栄養と酸素を供給するなどの大切な役割を担っています。今までのむし歯治療では、神経が露出した場合は当然のように、歯髄を除去する治療を施してきました。これは、歯髄を除かずに詰め物や被せ物を行った場合、神経が弱って更に深刻な痛みなどの症状が現れるためでした。しかし、抜髄することにより痛みからは解放されますが、象牙質の形成や栄養と酸素を供給するという役割が果たせずに、その歯は非常に脆くなってしまうのです。このように歯髄をできるだけ残すことは、歯の寿命に大きく関わり、長期的な健康にとっても大変重要な要素となっています。歯根破折のリスク
「歯髄を守る」「歯の神経を残す」理由としては、歯髄の有無が歯の寿命に大きく関わるからです。歯の失う原因には、むし歯や歯周病、外傷などがありますが、最も多い原因は歯根破折であり、喪失歯の約6割を占めているといわれます。この歯根破折を生じた歯のほとんどは神経のない歯(失活歯)で、過去にむし歯などの原因で神経を取る処置(抜髄処置)がなされたものです。抜髄処置や根管治療がなされた失活歯は、健全歯と比べて歯質が大きく失われているため、歯根破折のリスクが高く、相対的に歯を失うリスクも高くなってきます。また、歯を失う2番目の原因である歯の根の病気(根尖病巣/根尖性歯周炎)においても、抜髄処置や根管治療による失活歯が問題になります。1番目の原因の歯根破折と合わせて、喪失歯の7割以上が神経のない歯となっており、歯を失わないためにも歯髄を守ることが重要となっています。覆髄処置
歯髄近くまで進行した重度のむし歯に対して、歯髄の上に保護する薬剤を置く覆髄処置を行うことで、刺激や細菌から守っています。今までは、水酸化カルシウムによる直接覆髄法で、歯髄の保護・温存を試みてきましたが、それほど成功率は高くなく、結果的に抜髄に至るケースが多々ありました。MTA覆髄治療
MTA覆髄治療では、ケイ酸カルシウムを主成分とするMTAセメントを使用して覆髄治療を行い、従来の水酸化カルシウムによる治療と比べて、歯髄保存の可能性が高まっています。MTAセメント
MTAセメントは、歯の成分にも含まれるケイ酸カルシウムを主成分とした歯科用セメントです。強アルカリ性ですから、むし歯菌に感染した歯髄に対して、その殺菌効果を利用して保存できる可能性が高まりました。尚、生体親和性の高いのが特徴ですから、周辺組織の修復も可能となっています。MTAセメント(プロルートMTA)は、1993年アメリカのロマリンダ大学のDr.Mahmoud Torabinejadらによって、根管穿孔部を封鎖する材料として開発され、1998年以降は欧米各国に、2007年には日本で発売が開始されました。以来、多くの症例に使用され、高い臨床評価を得ています。MTA(Mineral Trioxide Aggregate)は、生体親和性や封鎖性、石灰化促進作用、デンティンブリッジ形成能、細胞反応活性化促進作用、抗菌性に優れた革新的な材料といえます。MTA覆髄治療のメリット
歯髄保存の可能性 通常であれば神経を取るケースでも、神経を残せる可能性がある。 歯の切削を最小限に抑えられる 抜髄処置(根管治療)を回避できることで、歯を削る量を最小限に抑えられる。 歯の寿命が延びる可能性がある 歯の主要な喪失原因である失活歯の歯根破折や根尖病巣を回避し、歯の寿命を延ばせる可能性があります。 生涯でかかる治療費用の抑制 失活歯では、経年的に根尖病巣が出現し再根管治療や被せ物の再製作が必要になることが多くあります。歯髄の保存より、抜髄処置(根管治療)の費用、ファイバーコアなどの土台費用、セラミッククラウンなどの高額被せ物の費用がかからずに済みます。治療上の注意点
適応症が限られる C2(う蝕症第二度)の非感染生活歯髄に適応され、何もしなくてもズキズキ痛む(自発痛)、温かいもので痛むなどの炎症歯髄やC3(う蝕症第三度)の感染歯髄には、非適応となっています。冷たいもので少ししみる程度なら適応される可能性はありますが、むし歯の状態を直接確認して判断する必要があります。 歯髄を保存できない場合がある 従来より高い確率で歯髄を保存できる治療法ですが、歯の状態によっては治療後に歯髄の炎症などにより、抜髄処置に至るケースもあります。 治療直後に歯がしみる場合がある 治療直後は、むし歯除去時の刺激や覆髄処置の刺激で一時的に歯が過敏になり、冷たいものなどに対してしみたり痛む場合があります。しかし、歯髄の回復に伴い、軽減・消失されます。 保険適用外の治療 MTA覆髄治療は保険適用外治療となり、全て自費診療となります。MTAセメント自体が1g数万円という高価な材料なので、使う量によって異なりますが、数万円程度はかかります。 いかがでしたか、MTA覆髄治療は万能治療法ではありませんが、今までの治療法より効果的な結果が出ているのは確かです。自分の歯を大切にするため、保険診療内の治療にとらわれず、より良い治療で自身の歯を守ってください。監修者情報
公開日:2023年07月10日
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