この記事の概要は?
「最近、なんだか体調が優れない…」「もしかして、舌の位置が関係しているの?」
これまであまり意識してこなかった舌のポジションが、実は私たちの心身の健康に深く関わっているとしたら、それは大きな発見ではないでしょうか?
この記事では、歯科医師の観点から、「舌の正しい位置」とは何か、なぜそれが重要なのか、そして間違った舌の位置が引き起こす可能性のある様々な問題について分かりやすく解説します。
さらに、ご自身でできる簡単なセルフチェック方法や、今日から始められる改善のためのエクササイズ、そしてどのような場合に専門家のサポートが必要になるのかについても具体的にご紹介します。
もしかして私も?「舌の正しい位置」と簡単セルフチェック
多くの方が、普段ご自身の舌が口の中のどこにあり、どのような状態か、あまり意識されていないかもしれません。しかし、舌には理想的な「正しい位置」というものがあります。
「正しい舌の位置」の基本とは?
「正しい舌の位置」の最も大切なポイントは、舌の先端(舌尖部 – ぜっせんぶ)が、上の前歯のすぐ裏側にある「スポット」と呼ばれる少し膨らんだ部分に軽く触れていることです。このスポットは、意識してみるとすぐに見つけられるはずです。
しかし、重要なのは舌の先端だけではありません。実は、舌全体(舌体部 – ぜったいぶ)が、口の天井部分である上顎(口蓋 – こうがい)にぴったりと吸い付くように密着している状態が理想的です。
このとき、唇はリラックスして軽く閉じられ、上下の歯はわずかに離れているか、ごく軽く触れ合う程度が良いとされています。そして、このような舌のポジションは、自然と鼻呼吸(びこきゅう)を促します。
逆に、舌が前歯や横の歯を押している状態は正しい位置とは言えません。舌は歯を動かすほどの力を持っているため、持続的に歯に圧力がかかると歯並びに影響を与える可能性があるのです。
今すぐできる舌の位置の簡単セルフチェック法
ご自身の舌の位置が正しいかどうか、簡単なセルフチェックで確認してみましょう。
まず、リラックスした状態で唇を軽く閉じ、普段通りに呼吸をしてみてください(理想は鼻呼吸です)。その状態で、以下の点を確認します。
チェックポイント | 正しい位置 | 間違った位置 |
---|---|---|
舌の先端はどこにありますか? | 上の前歯のすぐ後ろの歯茎 | 上の前歯の裏側を押している 下の前歯の裏側 上下の歯の間に挟まっている |
舌全体(舌の真ん中あたりから奥)はどこにありますか? | 上顎(口蓋)にしっかりと吸い付いている | だらんと下の顎に落ちている 口の中でどこにも触れずに浮いている |
唾液を飲み込むとき、舌はどのように動きますか? | 舌全体で上顎を押し上げるようにして飲み込んでいる | 舌が前歯を押すように動く |
舌の側面(横の部分) | 滑らか | 歯の跡(圧痕 – あっ こん)がついている |
もし、歯の跡(圧痕 – あっ こん)がついている場合は、舌が低い位置にあったり、無意識に歯に押し付けられたりしている「低位舌(ていいぜつ)」の可能性があります。
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「間違った舌の位置」代表的な3つのパターン
セルフチェックで「もしかして…」と思われた方のために、代表的な「間違った舌の位置」のパターンを3つご紹介します。
低位舌
低位舌(ていいぜつ)は、舌が本来あるべき上顎から離れ、口の底や下の歯の内側などにだらんと下がっている状態を指します。舌の筋力が弱かったり、口呼吸が習慣になっていたりする場合によく見られます。
低位舌では、舌が上顎を適切に刺激せず、上顎の成長が不足したり、歯列が狭くなったりする原因となることがあります。また、気道が狭くなりやすく、いびきや睡眠時無呼吸症候群のリスクを高めることも指摘されています。
舌突出癖
舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)は、話すとき、飲み込むとき、あるいは安静にしているときに無意識に舌が前歯を押したり、上下の歯の間から舌が突き出たりする癖のことです。
乳幼児期には生理的なものとして見られることもありますが、成長してもこの癖が残ると前歯に持続的な力がかかり、出っ歯(上顎前突)や奥歯で噛んでも前歯が閉じない開咬(かいこう)といった歯並びの問題を引き起こす主な原因となります。
歯間への舌の挿入
歯間への舌の挿入は、舌突出癖と似ていますが、特に安静時に舌が上下の歯の間に挟まっている状態です。これもまた、前歯が噛み合わない開咬の原因となりやすいパターンです。
舌の位置が悪いとどうなる?知っておきたい身体への影響
舌の位置が正しくない場合に具体的にどのような問題が起こりうるのかを見ていきましょう。
歯並びへの影響
舌の位置が不適切な場合、最も直接的な影響が現れやすいのが歯並びです。
舌は非常に強い筋肉であり、毎日無意識のうちに歯に力を加えています。その力が不適切な方向にかかると、歯並びが徐々に乱れてしまうのです。
代表的なものとしては、以下になることもあります。
- 出っ歯(上顎前突)
- 上下の前歯が噛み合わない開咬(かいこう)
- 歯がガタガタに生える叢生(そうせい)
- 受け口(下顎前突)
特に注意が必要なのは、矯正治療を受けた後の「後戻り」です。
せっかく時間と費用をかけて歯並びを整えても舌の悪い癖が改善されていなければ、舌の力によって再び歯が動いてしまい元の状態に戻ってしまうリスクが高まります。
口呼吸、いびき、睡眠時無呼吸症候群
舌の位置は、呼吸の質にも大きな影響を与えます。正しい舌の位置は鼻呼吸を促しますが、舌が低い位置にある「低位舌」の状態では気道が狭まりやすく、無意識のうちに口で呼吸をする「口呼吸」が習慣化しやすくなります 。
口呼吸は口腔内を乾燥させ、唾液による自浄作用や免疫作用を低下させるため、虫歯や歯周病、口臭のリスクを高めます。
さらに深刻なのは、睡眠中の呼吸への影響です。舌の付け根(舌根部)が喉の奥に落ち込みやすくなる「舌根沈下(ぜっこんちんか)」を引き起こし、いびきの原因となったり、重症化すると「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」を発症したりする可能性があります。
発音・滑舌・飲み込みへの影響
舌は、言葉を明瞭に発音するため(調音)、そして食べ物をスムーズに飲み込むため(嚥下 – えんげ)に非常に精密な動きをしています。舌の位置が正しくなかったり、舌の筋力が弱かったりすると、これらの機能にも支障が出ることがあります。
食べ物を飲み込む際には、舌が食べ物をまとめて喉の奥へ送り込む重要な役割を担っています。
正しい嚥下では、舌は上顎にしっかりと押し付けられます。しかし、舌突出癖があると、飲み込むたびに舌が前歯を押してしまい誤った嚥下パターンが定着してしまいます。
これは、食事中にクチャクチャと音を立てる原因になったり、食べこぼしが多くなったりすることにも繋がります。
顔つき・見た目・姿勢への影響
意外に思われるかもしれませんが、舌の位置は顔つきや見た目、さらには全身の姿勢にも影響を与えることがあります。舌や口周りの筋肉は、顔の他の筋肉とも連動しているためです。
舌が常に低い位置にあると、口周りの筋肉(口輪筋)が緩みやすくなり、口がぽかんと開いた状態(お口ポカン)になりがちです。これは、しまりのない印象を与えたり、長期的には顔の下半分のたるみや二重あごの原因になったりするとも言われています。
頭痛、肩こり、顎関節症
舌の位置の異常は、これまで述べてきたような直接的な影響だけでなく、間接的に様々な身体の不調を引き起こす可能性も考えられます。
例えば、間違った舌の位置や口呼吸によって顎の関節に負担がかかり続けると、顎関節症を発症し、口を開けにくい、顎が痛む、カクカク音がするといった症状が出ることがあります。顎関節症は、頭痛や肩こりを伴うことも少なくありません。
舌の位置が悪くなる原因は?
なぜ舌の位置が悪くなってしまうのでしょうか。主な原因を知ることで、ご自身の状況をより深く理解し、適切な対策を考える手助けになります。
アレルギー性鼻炎などによる慢性の鼻づまり
アレルギー性鼻炎や蓄膿症(副鼻腔炎)、扁桃肥大などで鼻が詰まりやすく、鼻で呼吸しづらい状態が続くと、無意識のうちに口呼吸が常態化してしまいます。
口呼吸をしているときは、舌は自然と低い位置(低位舌)になりやすく、これが定着してしまうのです。
指しゃぶりなどの習慣
指しゃぶりや爪噛み、唇を吸う・噛むといった口腔習癖も大きな原因です。
特に長期間にわたる指しゃぶりは、前歯の間に隙間(開咬)を作りやすく、その隙間に舌を押し込んだり、安静時にも舌を挟んだりする癖(舌突出癖)を誘発します。
舌小帯の異常
解剖学的な特徴として「舌小帯(ぜつしょうたい)の異常」も関係しています。
舌小帯とは、舌の裏側についているヒモ状の組織のことです。これが生まれつき短かったり、硬かったりすると、舌の動きが制限され、舌を上顎に持ち上げることが難しくなり、結果として低位舌や舌突出癖が生じやすくなります。
舌や口周りの筋力低下
現代の食事は柔らかいものが多く、昔に比べてよく噛む機会が減っています。
これにより、舌や口輪筋(こうりんきん:口の周りの筋肉)などの筋力が十分に発達しなかったり、加齢とともに衰えたりすると、舌を正しい位置に保つことが難しくなります。
すぐに始められる!舌の正しい位置を取り戻す改善トレーニング
意識的なトレーニングや習慣の改善によって、多くの場合、舌の機能は向上させることが可能です。ご自宅で今日から始められる簡単な方法をご紹介します。
ただし、症状が重い場合や、ご自身での改善が難しいと感じる場合は、無理せず専門家にご相談ください。
自宅でできる簡単エクササイズ
舌や口周りの筋肉を鍛え、正しい舌の動きを身につけるための簡単なエクササイズをご紹介します。
あいうべ体操は、口と舌を大きく動かすことで、舌の筋力を高め、口呼吸を鼻呼吸に改善することを目的とした以下の体操です。
- 「あー」と口を大きく開く。
- 「いー」と口を横に大きく広げる。
- 「うー」と唇を前に突き出す。
- 「べー」と舌を下に思い切り突き出す。
これを1セットとし、1日に30セット程度を目安に行います。声は出しても出さなくても構いません。
舌回しも有効で、口を閉じた状態で、舌先で歯茎の外側をゆっくりとなぞるように回します。
右回し20回、左回し20回を1セットとし、1日数セット行うと効果的です。舌や頬の筋肉が鍛えられ、唾液の分泌も促されます。
これらのエクササイズは、あくまで基本的なものです。無理のない範囲で、毎日続けることが大切です。
話題のMewing(ミューイング)とは?
Mewing(ミューイング)とは、イギリスの歯科医師ジョン・ミュー氏が提唱した、舌を正しい位置(上顎に舌全体をつけ、鼻呼吸をする)に保つことで顔の骨格や歯並びの改善を目指す考え方やトレーニング方法を指します。
基本的な考え方は、これまで述べてきた「正しい舌の位置」の重要性と共通する部分が多いです。舌を上顎にしっかりとつけることで、上顎の成長を促し、気道を確保し、鼻呼吸を習慣化するというものです。
ただし、ミューイングによって劇的な顔貌の変化や歯並びの改善が得られるかについては科学的なエビデンスがまだ十分とは言えません。自己流で行うことで、かえって顎関節に負担をかけたり、不適切な力の加え方で問題が生じたりする可能性も否定できません。
特に、歯並びや噛み合わせに大きな問題を抱えている場合や成長期のお子様の場合は、まず歯科医に相談し適切な診断と指導を受けることが重要です。
MFT(口腔筋機能療法)
MFT(Myofunctional Therapy:口腔筋機能療法)とは、舌や唇、頬など、口の周りの筋肉のバランスを整え、正しい使い方を習得するための専門的なトレーニングプログラムです。
歯並びの乱れや口呼吸、誤った嚥下癖などの根本的な原因にアプローチし、矯正治療の効果を高めたり、治療後の後戻りを防いだりする目的で行われます。
MFTには様々なエクササイズがありますが、ここでは代表的なスポットポジション練習をご紹介します。スポットポジション練習は、舌の先端を正しい位置「スポット」につける感覚を覚える練習です。
割り箸などでスポットを軽く押し、その感覚を覚えたら、舌先をそこに5秒間キープします。これを数回繰り返します。
MFTのエクササイズは、正しい方法で継続することが重要です。自己流で行うと効果が得られにくい場合や、間違った方法で続けてしまう可能性もあります。
関心のある方は一度、MFTに詳しい歯科医院に相談してみることをお勧めします。
歯科医に舌の位置改善を相談するメリット
セルフケアや簡単なエクササイズは、舌の正しい位置を意識し、筋力をつける上で非常に有効です。しかし、長年の癖や、骨格的な問題、あるいは歯並びの乱れが複雑に絡み合っている場合、ご自身だけの努力では改善が難しいこともあります。
そのような時は、歯科医に相談することが、問題解決への確実な一歩となります。
なぜ歯科医?舌の位置と歯並びの深い関係
「舌の位置の相談なのに、なぜ歯科医なの?」と疑問に思われるかもしれません。前述の通り、舌の位置と歯並びは密接に関連し合っています。
不適切な舌の位置や癖は、出っ歯、開咬、受け口、叢生といった様々な不正咬合の大きな原因となります。逆に、歯並びが悪いことで舌が正しい位置に収まりにくく、結果として舌の癖が助長される側面もあります。
歯科では、歯列矯正により歯を動かして見た目を整えるだけでなく、顎の成長や顔全体のバランス、そして舌や唇といった口周りの筋肉の機能(口腔筋機能)までを考慮して診断・治療計画を立てます。
そのため、舌の位置の問題が歯並びにどのように影響しているのか、あるいは歯並びの問題が舌の機能にどう関わっているのかを的確に評価できます。
MFT(口腔筋機能療法)の指導
歯科医師や専門のトレーニングを受けた歯科衛生士が、患者さん一人ひとりの状態に合わせたMFTのプログラムを作成し、マンツーマンで指導します。
正しい舌の位置、呼吸法、嚥下法などを習得し、それを日常生活で無意識に行えるように習慣化することを目指します。
MFTは、矯正治療中や治療後に行うことで、治療効果を高め、後戻りを防ぐ上で非常に重要です。
矯正治療
舌の癖によって既に歯並びが悪くなってしまっている場合は、インビザラインなどのマウスピース矯正やワイヤー矯正などの矯正治療が必要になることがあります。矯正治療によって歯並びを整えることで、舌が正しい位置に収まりやすくなることもあります。
逆に、舌の癖が強い場合は、MFTと矯正治療を並行して行うことで、より効果的かつ安定した治療結果が期待できます。
他科との適切な連携
アレルギー性鼻炎や扁桃肥大など、鼻や喉の問題が口呼吸や舌の位置に影響している場合は耳鼻咽喉科医との連携治療が必要になることがあります。
また、舌小帯が極端に短く、舌の動きが著しく制限されている場合は、レーザーやメスで舌小帯を切って伸ばす簡単な手術(舌小帯伸展術または切除術)が必要なこともあります。これにより、舌が動きやすくなり、MFTの効果も出やすくなります。
これらの治療法は、患者さんの年齢、症状の程度、原因、そして希望などを総合的に考慮して選択されます。
お子さんの舌の位置が気になる場合も相談
お子さんの「お口ポカン」や指しゃぶり、滑舌の悪さ、食べこぼしの多さなどが気になる保護者の方もいらっしゃるかもしれません。
実は、子供の時期の舌の正しい位置と機能の獲得は顎の健やかな成長発育と、将来のきれいな歯並びにとって非常に重要です。
成長期のお子さんは、骨や筋肉がまだ柔らかく、感受性も高いため、MFTなどのトレーニングの効果が出やすいメリットがあります。
早期に舌の悪い癖を発見し、適切な対応を行うことで不正咬合の重症化を防いだり、将来的な矯正治療の必要性を減らしたり、治療期間を短縮したりできる可能性があります。
「うちの子、もしかして…」と思われたら、些細なことでも構いませんので、一度歯科医にご相談いただくことをお勧めします。
まとめ
正しい舌の位置とは、舌先が上の前歯のすぐ裏にある「スポット」に触れ、舌全体が上顎に密着している状態です。
このポジションは、健康的な鼻呼吸を促し、顎の正常な発育を助け、美しい歯並びを維持するための天然のバランサーとも言えるでしょう。
一方で、低位舌や舌突出癖といった間違った舌の位置は、出っ歯や開咬などの歯並びの問題、口呼吸、いびき、睡眠時無呼吸症候群、滑舌の悪さ、顔のたるみなど、様々な不調の原因となり得ることがお分かりいただけたかと思います。
しかし、大切なのは、これらの問題の多くが、意識的なトレーニングや専門家のサポートによって改善の可能性があるということです。
もし、ご自身の舌の位置や、それに伴うかもしれない何らかの症状にご不安を感じているのであれば、どうぞお気軽に当院にご相談ください。
専門的な診断と、一人ひとりに合ったアドバイスや治療法をご提案させていただきます。
よくある質問
舌のトレーニングは、どのくらいの期間続ければ効果が出ますか?
効果を実感できるまでの期間には個人差が大きく、癖の強さやトレーニングの種類・頻度によって異なります。数週間で意識が変わり始める方もいれば、数ヶ月以上の継続が必要な場合もあります。
大切なのは根気強く続けることです。専門家の指導を受けると、より効果的な進め方がわかります。
舌の位置を治すと、顔の形や大きさが変わることはありますか?
舌の位置が正しくなり、口周りの筋肉が適切に使われるようになると、顔つきが引き締まったり、たるみが改善したりする可能性はあります。
特に、低位舌や口呼吸が原因で顔の下半分が緩んでいた場合、その改善は期待できます。ただし、骨格そのものが大きく変わるわけではありません。
なぜ関西での歯並び矯正界隈で芦屋M&S歯科・矯正クリニックが最後のとりでと呼ばれているのか?